• Epoi in omotesando

    Shikipedia

    Epoi x ISdF

気軽に使えて、ちゃんといいもの

日本の伝統色をモチーフにしたEpoiの新スタンダードシリーズ「Shiki」とフローリストの越智康貴がコラボレーション。2色のレザーを組みわせたフラワーベースを3パターン、大小2サイズでリリースする。また、「Shiki」の色味にインスパイアされた花の写真の監修も行い、Epoiのインスタグラムで公開。レザーと花、一見異色にも思える組み合わせだが、どちらにもカラーを選ぶ楽しさ、変化する表情を楽しむという共通点がある。越智は表参道ヒルズのフラワーショップ「DILIGENCE PARLOUR」、東京ミッドタウンの「ISdF」を経営しながら、イベントの装花、雑誌・広告のスタイリングなど花を通した活動の他に、写真や文章などさまざまなクリエイション活動を続けている。自身のクリエイションのこと、店を通じて伝えたいこと、フラワーベースを作る上で大切にしたことを聞いた。

PHOTOGRAPHY BY YASUTAKA OCHI
TEXT BY MARIKO URAMOTO

東急プラザ銀座で体験するエポイの新しいストアコンセプト

花は好奇心が尽きない

越智さんが花の世界に入るきっかけは何でしたか?
文化服装学院を卒業後、資格を取るための学校に入学する予定で、それまでの半年間、時間ができたんですね。その時、百貨店に入っている花屋でなんとなくアルバイトを始めたんです。そしたら、なんか向いてるなと思って。
“向いているな”と思ったのはどういうところでしょうか?
手に持った時しっくりくる感じもありましたし、そもそも花というマテリアルがすごく興味深いなと思って。花と対峙していると、なにか嫌なことがあっても関係ないと思えるようになりました。自分は、生活する上で好奇心がすごく大切だと思っているのですが、花や植物に対して好奇心が尽きない部分に惹かれているのかもしれません。同じ花を見ていてもいろんな発見があるし、自分のコンディションによって見え方が違うので、本当に飽きないんですよね。あとは単純に色彩、形状、質感にも興味をくすぐられます。
越智さんはフローリストとして活動を始めた初期の頃から、さまざまなデザイナー、アーティストから依頼を受けて、店舗やブランドの装花、広告などを手がけられています。多くのクリエイターと取り組むことはどんな発見や学びがありますか?
独自のビジョンを持っている方々との仕事は、自分ではやったことのない組み合わせや想像すらしたことのない発想が次から次に出てきて、すごくおもしろいです。僕の仕事は、花という素材を通して人の考えや想いを形にしていくことなので、彼/彼女たちと取り組むことで、自分の辞書のボキャブラリーが増えていく感覚があります。
ものづくりの現場を連想させる空間

一小節ごとに書くように

フローリストとしてどんなことを大事にしていますか?
フローリストはほぼ頼まれ仕事なので、僕自分自身、花に関して主体的な物作りはあまりやってないんです。「フラワーアーティストの越智さん」と言われることがありますが、自分からそう名乗ったことはなくて。「フラワーアーティスト」というとユニークなコンビネーションや美しいビジュアルを生み出す人と思われがちですが、自分自身、花にそういった役割をもたらすのがあまり好きではないんです。フローリストとして、店を通して花の流通にスポットを当てることを大事にしたいと思っています。
花の流通とは?
花の世界には当然のことですがまず生産者がいて、市場があって、僕たち小売がいて、お買い求めくださるお客様がいます。さらにそのお客様には贈り先様がいらっしゃる場合もある。そうやって川の流れのように、花が流れていくことが僕はおもしろいと思っていて、それをどんなふうに提案していくかということをよく考えるんです。もちろん一つ一つの仕事は丁寧に、お客様の好みに寄り沿った花束や装花を作るよう意識はしますが、作ったものに対して僕の趣味や思考を色濃く反映させることはありません。いろんな人からかいつまんで聞いた話を一小節ごと書くように、人から人へ花が流れるような、そんなイメージでやっています。
越智さんのその想いがよく表れている一つが、ディリジェンスパーラーのパッケージだと思います。花の先端だけではなくて、花の後ろ姿、茎までしっかり見える透明のパッケージに入っていて、街中で花が運ばれる様子が見えます。
花を紙で覆うと一部分しか見えなくなりますが、透明のパッケージに入れることで、花全体の姿が見え、そしてそれが人の手によって運ばれる様子がよくわかる。花を運ぶということは人の気持ちが行き来してることでもあると思うんです。服は自分が好きで着ている場合がほとんどだと思いますが、花の場合は祝福や、感謝、好意など誰かに想いを伝える場合が多いので、そういった気持ちが運ばれている様子が可視化されているのがいいな、と。
運命の物件との出会い

デイリーな気軽さがある店と、珍しくて変な店

「越智さんっぽくお願いします」とか「越智さんにおまかせします」と100%委ねられることはありませんか?そういう時、自分らしさはどうやって発揮しますか?
そもそも、オリジナリティとは何か?と考えたときに、多くの人が“この人らしいスタイル”といったわかりやすいものを想像すると思うんですが、僕の中でのオリジナリティは、クライアントやお客様とのコミュニケーションによって生まれるもの。それぞれに課題やテーマがあって、何を求めているのかをヒアリングして、それに対して出した答えがオリジナリティになる。自分はカメレオン体質だと思っていて、カメレオンのように自由に変化するのが、自分にとってのオリジナリティになるのかなと。もちろんある程度自分の癖や、いいと思うポイントは絶対どこかにあって、それは時期によっても変わるのですが、それが取り組む人によって変わる、そういう感じです。
ご自身の店についてはどうですか?今、表参道と六本木で店を経営されていますが、それぞれで違いはありますか?
表参道のディリジェンスパーラーはお買い求めやすい価格帯の花を中心に揃えて、気軽に立ち寄れるキオスクのような店を目指しています。地元の駅前で見るような、なじみのあるチューリップとかバラといったものから、ちょっと変わったお花も置いています。一方で六本木のISdFは珍しい品種や高級な花瓶なども置いています。どこにでもあるものではなく、ユニークなものをお探しの方に向けた店にしたいと思っています。
越智さんのインスタグラムでは、ISdFを「もっと変な店にしたい」って書かれていましたね。
そう、変な店にしたいんです。あと、ディリジエンスパーラーではリサイクルの取り組みもしていて、使わなくなった紙袋を持ってきてくださったお客様にバラを一輪差し上げて、その紙袋に取っ手を付けてお持ち帰り袋として再利用するという、新たなサイクルの提案もやっています。
今後、やりたいことはありますか?
埼玉県で畑を始める予定です。そこで育てたハーブや実、葉を花束にしたり、鉢に植え替えて販売できたらと思っています。板前さんが自分の店で出す魚を自分で釣りに行く、なんなら養殖もやっちゃう、みたいな。そんな花屋をできたらと思っています。
“見せる”店づくり

使いやすさが何より大事

今回Epoiとフラワーベースを作る上でどういうことを意識しましたか?
フラワーベースに関しては“使いやすさ”が何より大事だと思っています。僕自身、家で使ってるものの多くが底面に重心があって、倒れにくいものです。花束をどさっと入れてもいいし、一輪飾るだけでもいい、という花器が好きで。今回Epoiと作ったフラワーベースは、内側はごくシンプルな円柱型のガラスベースで、長方形のレザーを2枚縫い合わせたスリーブ状のレザーをかぽっとはめるだけの作りになっています。安定感もあり、一輪挿しとしても使えるフラワーベースです。
レザーと花、という組み合わせが新鮮ですね。
そうですよね。作ってみて気づいたのですが、Epoiのレザーはすごく花に合うんです。絢爛な感じがないし、日本古来から存在する色彩をイメージしたShikiのレザーにはニュアンスや間(あわい)を感じます。花も同じで「ピンクのバラ」と一言で言ってもいろんなピンクがあるし、ピンクの中にも黄色っぽいの部分や白っぽい部分もあったりして、一言で形容できない美しさがある。だから、相性がいいのかなと思いました。Shikiは日本の色彩をイメージしたレザーですが「和っぽい花瓶」とか、逆に「洋っぽいフラワーベース」にはしたくなかった。僕自身、言葉で例えるのがあまり好きではないので、カテゴライズされない、汎用性の高さを意識しました。気を使わずデイリーに使ってほしいし、レザーが水に濡れてシミになってもいいと思う。気軽に使えるんだけど、ちゃんといいもの。それを意識して作りました。

バイオグラフィー

中村圭佑

越智康貴

1989年生まれ。フローリスト。フラワーショップ「DILIGENCE PARLOUR」、「ISdF」を営み、花や写真、文章を主軸に様々な表現活動を行なっている。